熊谷オフィスの弁護士の小林です。前回は離婚と財産分与の基本事項について解説しました。今回は具体的な財産ごとに、その取扱い等について解説をしていきます。
1 預貯金について
夫婦のいずれかの名義の預貯金は、原則として夫婦の共有財産として財産分与の対象となります。
もっとも、①婚姻前から有していた預貯金や、②婚姻後であっても婚姻生活とは無関係に取得した預貯金(例えば、贈与や相続で取得した場合)などは、夫婦で築き上げた共有財産とはならず(このような財産を特有財産といいます。)、財産分与の対象には含まれません。
子ども名義の預貯金は?
それでは、子ども名義の預貯金はどのように扱われるでしょうか。子ども名義の預貯金が財産分与の対象となるか否かは、その実質から判断することになります。
例えば、子ども名義の預貯金であっても、その原資が夫婦の給料を学費等に充てるために積み立てていた場合、この預貯金は実質的には夫婦の共有財産であるといえ、財産分与の対象となるといえます。
他方で、原資が子ども自身がアルバイトをして取得したお給料である場合などは、この預貯金は実質的にも子ども固有の財産といえますので、財産分与の対象とはなりません。
2 自動車について
婚姻期間中に購入した自動車についても、夫婦で築いた財産といえますので、原則として財産分与の対象となります。
具体的な分与方法ですが、夫婦のいずれかが自動車を取得をする場合には、当該自動車の価値相当額を代償金などで精算をすることになります。この場合、査定などにより当該自動車の価値を把握する必要がありますが、簡便な方法として、自動車買取業者から取得した見積りを利用することもあります。他方、自動車を売却する場合には、売却代金を分与することになります。
分与割合については、一般的には2分の1ずつとなりますが、自動車購入時に、夫婦のいずれかが特有財産を支出した場合など(例えば、婚姻前から保有していた預金を購入費用に充てた場合)においては、財産形成への寄与割合が異なりますので、2分の1の分与割合を修正することもあります。
なお、自動車ローンを利用して購入して、まだ残債務がある場合には、通常は所有者がローン会社となっているでしょうから、財産分与にあたっては別途検討が必要となります。
3 生命保険について
生命保険には、①解約返戻金のある「貯蓄型」と、解約返戻金のない「掛け捨て」があります。このうち、①の場合には、婚姻期間中に夫婦の共有財産から保険料を支払っていたのであれば、その期間に対応する解約返戻金が財産分与となります(例えば、婚姻前から加入していた場合、婚姻前の期間に対応する解約返戻金は財産分与の対象にはならないということです。)。
生命保険の解約返戻金については、通常、保険会社に問合せを行うことで、解約返戻金額を教えてもらうことができます。その際、別居が先行している場合には、別居時の解約返戻金が財産分与の対象となるのが原則ですので、別居時を基準とした解約返戻金額を計算してもらうようお願いしましょう。
具体的な分与方法ですが、①生命保険を維持して、解約返戻金額に対する分与割合に相当する額を代償金で支払う方法や、②生命保険を解約して、解約返戻金を分与割合にしたがって分与する方法があります。
なお、生命保険をそのまま維持する場合、保険金受取人については注意が必要です。一般的に、生命保険の受取人は元配偶者としている場合が多いかと思いますが、離婚した後にまで元配偶者に保険金を受け取らせたくない場合が通常でしょうから、保険金受取人については変更手続を取ることも検討した方がよいでしょう。
学資保険の取扱い
お子さんがいらっしゃる場合には、学資保険に加入をしている夫婦も多いと思います。学資保険についても、通常、解約返戻金がありますので、財産分与においては、生命保険の「貯蓄型」と同様に考えることができます。
そのため、財産分与に際しては、保険会社に問合せを行い、離婚時(別居が先行する場合には別居時)の解約返戻金額を教えてもらいましょう。
なお、実務においては、学資保険の契約者・受取人が父親(夫)であり、離婚によって子の親権者を母親(妻)とするようなケースが比較的多いのですが、このように契約者・受取人と親権者が別々になるような場合には、離婚時において、契約者・受取人を親権者である母親(妻)に変更しておいた方が、後々の紛争予防や手続の煩雑回避等という観点からは望ましいといえますので、このような点も検討をした方がよいでしょう。
4 退職金について
退職金は、一般的に、労働の対価としての性質(賃金の後払的性質)を有しているものですので、財産分与の対象となるのが原則です。
もっとも、退職金については、離婚時において既に支払われている場合には当該金額を財産分与の対象として処理することが可能ですが、離婚時には未だ支給されていない場合も多く、具体的な分与方法について実務上も事案に応じて様々な方法がとられています。例えば、離婚時に自己都合退職したと仮定した退職金額のうち婚姻期間に対応する金額を基準として、離婚時に清算を行ったり、実際に将来に退職金が支給された際に支払うことにするケースなどがあります。
退職金が財産分与の対象となるか否か、対象となる場合の金額や分与方法などについては事案によって異なってきますので、具体的には弁護士に相談をされることが確実でしょう。
5 その他
他にも、婚姻中に取得をした高価な動産(カバンや家具等)、株式なども財産分与の対象となります。
6 まとめ
今回は預貯金や生命保険等についてお話をしました。次回は、不動産の取り扱いなどについて解説をしたいと思います。