弁護士の小林です。離婚においては、他方配偶者の異性問題、すなわち不貞行為が離婚原因となることが多く、その場合、配偶者及びその相手への慰謝料請求が可能となるケースがあります。
そこで、今回は、配偶者により不貞行為がなされた場合における慰謝料請求について取り上げたいと思います。
1 不貞行為の意義
一般に夫婦は相互に貞操義務を負っており、民法は、配偶者による不貞行為を離婚原因として明記しています(民法770条1項1号)。そこで、「不貞行為」の意義が問題となりますが、最高裁判所は、「配偶者のある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいう」としており、ここに「性的関係」とは、通常、性交渉を意味するものと考えられています。
そのため、離婚原因にいう「不貞行為」とは、配偶者以外の者と性交渉を行うことをいい、これに至らない性交渉以外の行為については「不貞行為」には該当しないといえます(もっとも、性交渉以外の行為については、その行為の態様等によっては、「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)に該当するとして、離婚原因となる可能性があります。)。
2 不貞行為と不法行為の関係
不貞行為は、夫婦の婚姻共同生活の平和・平穏を阻害する典型的な行為ですので、不貞行為によって他方配偶者は大きな精神的苦痛を被ります。そのため、不貞行為には、通常、不法行為が成立して慰謝料請求が可能ということになります。
このことは、いわゆる性交渉を意味する「不貞行為」に限定されません。つまり、「不貞行為」に至らない行為であっても、これにより夫婦共同生活の平和・平穏が害されて配偶者が精神的苦痛を受けたと評価できる場合には、不法行為が成立し、慰謝料請求が認められることがあります。
なお、不貞行為は、配偶者と不貞相手とが共同で行った不法行為であると考えられます。そのため、不貞行為を理由にした慰謝料請求は、配偶者と不貞相手の2人に対して行うことができます(もちろん、一方のみに請求することも可能です。)。
3 慰謝料の金額
よく慰謝料の相場は100万円~300万円くらいであるなどといわれることがあります。
もっとも、慰謝料の金額は、婚姻期間、不貞行為に至る経緯及びその期間、子どもの存在、不貞行為により婚姻が破綻し離婚に至ったか否か等の様々な事情により決定されます。そのため、ケースによっては100万円にも満たない低額な慰謝料しか認められないケースも存在するわけです。
したがって、このような「相場」に関する情報は参考程度に考えておいた方がよいでしょう。
4 慰謝料の請求方法
慰謝料の請求方法としては、大きく分けて①裁判外での請求と、②裁判上での請求があります。
①については、例えば不貞相手に電話や書面により連絡を入れて慰謝料の支払を求める方法です。いわゆる示談交渉です。この方法の場合、当人同士での話合いですので、相手が不貞行為の事実を認めれば、あとは金額だけの話となり、早期解決が望めることが多いというメリットがあります。ですが、あくまで話合いですから、相手が不貞行為の事実を認めない場合などでは解決はできません。
①による解決が望めない場合には、②の方法をとることになります。訴訟の場合、特に相手が不貞の事実を争ってくるケースでは、請求する側が不貞行為の事実を証拠で立証しなければなりません。そのため、予め、配偶者と不貞相手との手紙やメールでのやりとり、ホテルに2人で入る瞬間の写真や興信所の調査報告書等の証拠を準備しておくことが非常に大切になります。
5 慰謝料請求と時効
2でも述べましたが、不貞行為を理由とした慰謝料請求は、法律的には不法行為に基づく損害賠償請求であり、その請求権は消滅時効にかかって消滅する可能性があります。
通常、①配偶者の不貞行為とその相手を知ったときから3年間、②配偶者と相手の不貞行為の時から20年間のいずれか短い期間です(こちらは正確には除斥期間といいます)。したがって、配偶者の不貞行為を知った場合に、そもそも慰謝料請求をするか否かを悩まれるケースも少なくないですが、上記期間を経過してしまうとそもそも請求が認められなくなります(もちろん、相手が任意で支払うといえば支払ってもらえます。)。
そのため、常に時効期間については注意をしておくことが大切です。